WORKS ないシゴト

「知りたくなかった過去」広告

担当範囲
企画 / コピーライティング / 制作ディレクション / PR
公開日
2026/08/18
クライアント
株式会社クロックワークス

自分や身近な人の過去って、知りたいけど知りたくない。

映画『私はあなたを知らない、』(2026年8月28日公開/配給:クロックワークス)のプロモーションとして、「知りたくなかった過去」広告を企画・制作しました。

いろんな人から集めた「知りたくなかった過去」のエピソードを、公開直前の京王井の頭線1編成にまるごと掲出するという企画です。車内に並んだ14種類のエピソードは、すべて実話。クスッと笑えるものからシビアなものまで、車内は誰かの黒歴史一色となりました。

コンセプト

クロックワークスさんからのオーダーは、「年間鑑賞本数12本以上の映画コアファンや、監督・キャストの既存ファンだけでなく、映画を年に1〜2本しか観ない人にまで間口を広げたい」というものでした。初期段階では間口を広めるために“サスペンス要素”を強調して打ち出そうと考えられていました。

そこでまず本編を観せていただいたところ、観終わって感じたのは、この映画はサスペンスとしてよりも、ヒューマンドラマとして語られるべき作品だということでした。

サスペンスを期待して観に来た人は、どうしても「思っていた映画と違う」となり、鑑賞後の満足度が上がりません。反対に、人間の心の動きや関係性を描いたドラマとして観に来てもらえれば、観終わったときの納得感はぐっと高くなる。いまの映画は、観た人のレビューや口コミが次のお客さんを連れてきてくれます。ライト層まで間口を広げたいなら、なおさら売り方を間違えるわけにはいきません。そこでまず、サスペンスとして煽る宣伝はやめましょうと提案しました。

では、この映画の肝はどこにあるのか。考えた末に行き着いたのが、この映画が描いているのは「知ることの残酷さ」ではないかということでした。

知るという行為は、人が息を吸うのと同じくらい、日常の中で無意識に繰り返されています。食べてはいけないものを食べてしまっても、吐き出すことはできるし、いずれは体の外に出ていきます。
でも、一度知ってしまったことは、忘れようと思っても忘れられません。しかも厄介なことに、知らなくていいことほど、人は好奇心に突き動かされて知りたくなってしまう。「知る」ということは、そんなパラドックスを抱えたとても残酷な行為なのです。

この映画には、知らないままでよかったことを知ってしまったがために、傷ついていく人たちが描かれています。だからこそ物語の最後に選ばれるのは、知ってしまった痛みを引き受けた上で、誰かのために「知らないことにする」という赦しでした。
実際、タイトルの「私はあなたを知らない」というセリフは作中に2回出てくるのですが、そのどちらも本当は知っているのに口にされます。

そこで、宣伝の入口もこのテーマに置くことにしました。ほぼすべての人が人生のどこかで抱えている普遍的な経験「知ってしまった痛み」への共感です。

こうして生まれたのが、「誰にでも、知りたくなかった過去がある。」 というコピーと、実話の「知りたくなかった過去」を集めて広告にするという企画です。

掲出概要

掲出場所は京王井の頭線。1編成5両がまるまる『私はあなたを知らない、』仕様となり、中吊り・まど上に全14種類の「知りたくなかった過去」が掲出されました(掲出期間:2026年8月18日〜8月31日)。あちこちに点在させるのではなく1編成に集中させたのは、エピソードが「並ぶ」ことのインパクトと、乗った人が思わず撮影してシェアしたくなる状況をつくるためです。

エピソードは、一般の方への取材に加えて、実体験をエッセイとして発信されている5名のエッセイスト・ライターの方々(かんそうさん、斉藤ナミさん、しまだあやさん、しりひとみさん、はましゃかさん)にも提供していただきました。

中吊り(4種)

窓上(10種)

胸に迫るもの、思わずクスッと笑ってしまうものなど、ショッキングな話ばかりを集めなかったのは、この映画が単なる悲劇ではなく、赦しと希望の物語だからです。「悪い人だと思っていたら、実は守ってくれていた」というような、ハリーポッターでいうスネイプ先生のような余韻の残るいい話を半分程度は混ぜるトーン設計にしました。

そして、すべてのエピソードは句点ではなく読点「、」で締めくくられています。タイトル『私はあなたを知らない、』の読点には、監督の「最後に句点ではなく読点がついているのは、その次に言葉があるから」という思いが込められています。知ってしまった過去にも、その次に続く言葉がある。広告でもそのささやかな引用として読点を用いました。

エピソードの配置

エピソードをどこに貼るかにもこだわりました。車内を目線の高さで上下に分け、目線より上にある中吊りとまど上はすべてエピソードで統一。目線より下にあるドア横は映画の告知にあてて、「ギャラリーのゾーン」と「宣伝のゾーン」をはっきり分けています。

上のゾーンでつくりたかったのは、パッと見上げたときに、白地に文字だけのエピソードがずらっと並んでいる状況です。目線より高い位置にあれば、座っている人にも立っている人にも車内全体を見渡してもらえます。どこに立っていても一通りのエピソードが目に入るように配置を組み、ひとつの展示を見に来たような感覚で、いろんな人の過去を読んでもらえる設計にしました。

とはいえ、宣伝にならなければ本末転倒です。ドア横ポスターは、車内広告の中でも中吊りやまど上に比べて認識率が高いというデータがありました。だからこそ、その一番見られる場所に映画の本ポスターを置いています。

反響

掲出初日に合わせて公式SNSからPR投稿を行い、エピソードを提供したエッセイストのみなさんにも「私のエピソードが広告になりました」という形で投稿していただきました。広告を起点に、「#知りたくなかった過去」を投稿してもらうSNSキャンペーンも展開されました。

掲載実績

新聞・雑誌
宣伝会議「ブレーン」(2026/10/1)

Webメディア
映画ナタリー「坂口健太郎主演作『私はあなたを知らない、』の”エピソード広告”が井の頭線をジャック」(2026/8/17)
映画情報どっとこむ「『私はあなたを知らない、』知りたくなかった過去のエピソード広告が井の頭線をジャック」(2026/8/17)

クレジット

Client:株式会社クロックワークス
Creative Director / Copywriter:岡シャニカマ(ない)
Art Director / Designer:加納寛(CHAHANG)
Designer:日下部彩乃(CHAHANG)
Printing:三永印刷株式会社
エピソード提供(五十音順):かんそう、斉藤ナミ、しまだあや、しりひとみ、はましゃか